東京地方裁判所 平成11年(ワ)15224号 判決 1999年11月26日
原告
株式会社整理回収機構
右代表者代表取締役
鬼追明夫
右訴訟代理人弁護士
髙橋省
同
土井隆
同
宮川勝之
被告
岩崎充
同
矢作靖紀
右訴訟代理人弁護士
高中正彦
同
松島幸一
同
中村博明
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告らは、原告に対し、各自三〇八万五一〇一円及びうち一三九万七三四九円に対する平成七年三月一一日から支払済みまで年25.5パーセントの割合による金員を支払え。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告は、平成一一年四月一日、株式会社整理回収銀行を吸収合併し、株式会社住宅金融債権管理機構が商号を変更したものである。
(二) 株式会社整理回収銀行は、平成八年九月二日、株式会社東京共同銀行(以下「訴外銀行」という。)が商号変更したものである。
(三) 株式会社東京共同銀行は、平成七年三月二〇日をもって安全信用組合(以下「訴外組合」という。)から、訴外組合の有する後記手形買戻請求権等を含む一切の動産・不動産・債権等の権利義務につき事業譲渡を受けた。
2 被告らに対する請求債権の存在
(一) 訴外株式会社銀座ゴルフサービス(以下「訴外会社」という。)は昭和五一年九月二二日訴外組合に対し、手形貸付・手形割引・証書貸付その他一切の取引に関する次の内容の取引約定書を差し入れ、被告岩崎充及び被告矢作靖紀が連帯保証した。
記
(1) 割引手形の買戻及び期限の利益喪失
手形の割引を受けた場合に、手形の主たる債務者が期日に支払わなかったときは通知催告がなくても手形期日からの手形額面金額の買戻債務を負担する。
(2) 損害金
一〇〇円につき一日七銭の割合
(二) 手形割引
(1) 額面二六〇〇万円の手形割引
ア 訴外組合は、平成四年一二月二二日、訴外会社から左記約束手形(以下「本件手形①」という。)を割り引いた。割引率は年8.9パーセントである。
記
額面 二六〇〇万円
支払期日 平成五年一二月二二日
支払地 東京都台東区
支払場所 新潟中央銀行東京支店
振出地 東京都台東区
振出日 平成四年一二月二一日
振出人 株式会社三秀ジュエル
受取人 訴外会社
第一裏書人 訴外会社
イ 右手形の振出人である株式会社三秀ジュエルは平成五年一一月に取引停止処分を受けたため、訴外組合は訴外会社に対し手形買戻請求権を取得し、平成五年一二月二日、訴外会社の預金二〇六〇万二六五一円と相殺し、その結果、右手形割引による訴外組合の訴外会社に対する買戻請求権に基づく残債権は五三九万七三四九円となった。
ウ 訴外組合は、右手形を支払期日に呈示したが、支払いを受けられなかった。そこで、平成七年三月一〇日、訴外会社の預金四〇〇万円と相殺し、訴外組合の訴外会社に対する買戻請求権に基づく残債権は一三九万七三四九円となった。
エ なお、本件手形①の買戻請求権の遅延損害金は、五三九万七三四九円に対する支払期日の翌日である平成五年一二月二三日から訴外会社の預金四〇〇万円と相殺した平成七年三月一〇日まで、約定の日歩七銭の割合による金員一六七万〇四四二円である。
(2) 額面三二〇〇万円の手形割引
ア 訴外組合は、平成四年一月二二日、訴外会社から左記約束手形(以下「本件手形②」という。)を割り引いた。割引率は年8.9パーセントである。
記
額面 三二〇〇万円
支払期日 平成四年一二月二二日
支払地 東京都台東区
支払場所 新潟中央銀行東京支店
振出地 東京都台東区
振出日 平成四年一月一七日
振出人 株式会社三秀ジュエル
受取人 訴外会社
第一裏書人 訴外会社
イ 訴外組合は、振出人である株式会社三秀ジュエルが支払期日に支払わなかったため、訴外会社に対し買戻請求権を取得したが、その後、平成四年一二月二四日右手形は決済された。しかし、支払期日の翌日である同年一二月二三日から同月二四日まで二日間の年8.9パーセントの割合による利息金一万五六〇五円が未払いである。
(3) 額面五〇万円の手形
ア 訴外組合は、平成四年一二月二二日、訴外会社から左記約束手形(以下「本件手形③」という。)を割り引いた。割引率は8.9パーセントである。
記
額面 五〇万円
支払期日 平成五年一一月二二日
支払地 東京都台東区
支払場所 新潟中央銀行東京支店
振出地 東京都台東区
振出日 平成四年一二月二一日
振出人 株式会社三秀ジュエル
受取人 訴外会社
第一裏書人 訴外会社
イ 右手形の振出人である株式会社三秀ジュエルが平成五年一一月に取引停止処分を受けたため、訴外組合は訴外会社に対し手形買戻請求権を取得し、支払期日後である平成五年一二月二日に訴外会社から五〇万円の支払を受けた。
したがって、支払期日の翌日である平成五年一一月二三日から同年一二月二日までの一〇日間の年8.9パーセントの割合による一二一九円が未払いとなっている。
(4) 額面一〇〇万円の手形割引
ア 訴外組合は、平成三年一〇月一日、訴外会社から左記約束手形(以下「本件手形④」という。)を割り引いた。割引率は8.9パーセントである。
記
額面 一〇〇万円
支払期日 平成五年一月三一日
支払地 東京都新宿区
支払場所 東京相和銀行新宿西口支店
振出地 東京都品川区
振出日 平成三年九月二七日
振出人 株式会社バリューインターナショナル
受取人 訴外会社
第一裏書人 訴外会社
イ 訴外組合は、支払期日に取立てに出したが、支払を受けられなかったため、訴外会社に対し買戻請求権を取得したが、同年二月二日に振出人である株式会社バリューインターナショナルから支払いを受けた。訴外会社は、支払期日の翌日である平成五年一月三一日から同年二月一日まで年8.9パーセントの割合による利息を支払うべきところ、同月一日までの利息は受領したので、同月二日の一日分二四三円が未払いである。
(5) 額面一〇〇万円の手形割引
ア 訴外組合は、平成三年一〇月一日、訴外会社から左記約束手形(以下「本件手形⑤」という。)を割り引いた。割引率は8.9パーセントである。
記
額面 一〇〇万円
支払期日 平成五年三月三一日
支払地 東京都新宿区
支払場所 東京相和銀行新宿西口支店
振出地 東京都品川区
振出日 平成三年九月二七日
振出人 株式会社バリューインターナショナル
受取人 訴外会社
第一裏書人 訴外会社
イ 訴外組合は、支払期日に取立てに出したが、支払を受けられなかったため、訴外会社に対し買戻請求権を取得したが、同年四月一日に振出人である株式会社バリューインターナショナルから支払を受けた。訴外会社は、支払期日の翌日である平成五年四月一日の一日分について年8.9パーセントの割合による利息二四三円が未払いである。
3 訴外会社の会社整理の開始
訴外会社は、平成三年東京地方裁判所に対し、会社整理の申立てを行い、平成四年三月二五日に会社整理開始決定を受け(東京地裁平成三年ヒ第一〇〇二号事件)、平成五年三月一二日、同裁判所から訴外銀行が同意した平成四年一二月二〇日付け整理計画案の実行命令が発令された。
右計画案はその後変更され、平成七年一二月二二日、同裁判所から訴外銀行が同意した同年一一月一〇日付け整理計画変更案(以下「本件会社整理計画案」という。)の実行命令が発令された。
本件会社整理計画案の内容は以下のとおりである。
元本一三九万七三四九円(2(二)(ウ)に対応)は、訴外組合が根抵当権を設定している訴外会社所有不動産(以下「所定不動産」という。)を一八七六万八〇〇〇円以上の金額で平成九年一二月末日限り売却し、その売却代金をもって弁済する。
所定不動産が平成九年一二月末日までに予定した金額で処分できなかったときは、裁判所の許可を得た金額で売却等の処分をすることとし、その結果予定した弁済金額との間に差額が発生したときは、その差額の5.2パーセントに相当する金額を、平成二二年一二月末日限り弁済し、整理会社がその弁済を終了したときは、残額の免除を受ける。
しかしながら、原告は未だに返済を受けていない。
4 よって、原告は被告らに対し、連帯保証契約に基づき、元本一三九万七三四九円及び未払利息・損害金一六八万七七五二円、合計三〇八万五一〇一円及びうち一三九万七三四九円に対する平成七年三月一一日から支払済みまで年25.5パーセントの割合による金員を支払え。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 請求原因2(一)は認める。
2二(1)アは認める。
(1)イ、ウは否認する。ただし、本件会社整理案の策定にあたり追認した。
(2)エは不知。
(2)アは認める。
(2)イは不知。
(3)アは認める。
(3)イは不知。
(4)アは認める。
(4)イは不知。
(5)アは認める。
(5)イは不知。
3 請求原因3は認める。
三 抗弁
1 元本については、本件会社整理計画案に基づき、担保権を設定している不動産を処分し、その処分代金をもって弁済することとなっているから、訴外会社は訴外銀行から期限の猶予を受けている。
2 本件会社整理計画案により、訴外会社は訴外銀行に対し負っている利息・損害金は全額免除を受けた。
3 期限の猶予及び免除の効力は、次の理由から連帯保証人である被告らにも及ぶから、被告らは原告が主張する利息・損害金を支払う義務はない。
会社整理手続は、多数決によって和議条件、更生計画等を成立させる他の倒産法制と異なり、その成立・実行のためには、債権者と債務者との間の個別的同意が必要とされている。したがって、会社整理手続において、条文の根拠なく、附従性の例外を認めるべきではない。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は不知。2は認める。
2 抗弁3は争う。
会社整理計画案において、主債務者の当事者の債務が減免されたり、期限が猶予された場合にも、次の理由から破産法三二六条二項、三六六条の一三、和議法五七条、会社更生法二四〇条二項、商法四五〇条三項の規定を類推して、これらの債務減免等の効果は保証人には影響を及ぼさないと解すべきである。
(一) およそ保証人を要求するのは、主たる債務者からの回収が困難となる場合に備えてのものであり、この事情は破産、和議、会社更生、特別精算でも会社整理でも同様である。
(二) 会社整理においても、保証人に対して債務減免もしくは期限の猶予等の効果を及ぼすことは、保証人をつけた債権者の意思に反する。
(三) 主債務者に対する債務減免等の効果は主債務者に及ばないとした方が会社整理計画案に対する債権者の承諾が得やすい。
(四) 会社整理は集団的手続であることにおいては、他の手続と同様であり、異なる取扱いをする理由はない。
第三 裁判所の判断
一 請求原因のうち、被告らが不知とした各事実は、甲二号証、甲三号証及び弁論の全趣旨により認めることができる。
その余の事実は、当事者間に争いがない。
二 抗弁1について
当事者間に争いのない請求原因3によれば、本件会社整理計画案によって訴外会社は平成二二年一二月末までに所定不動産が売却されるまでの間、弁済を猶予したものと解すべきである。
三 抗弁2は当事者間に争いがない。
四 抗弁3について
会社整理計画案の中で示される債権者の権利変更が効力を有するためには、当該債権者の個別の同意が必要であり、同意しない債権者に対しては、債権者の多数決によっても、整理計画案を強制する方法はない。全くの私的整理と異なり、他の倒産法制同様、裁判所の監督を受けるところはあるが、それは、権利変更の公正さを担保しつつ、整理計画の実現を実効たらしめるところにその趣旨があるのであり、前記のように債権者の同意が個別、任意のものであることを考えれば、会社整理の実質は私的整理に近く、会社整理計画案への同意も債権者と整理会社との間の個別的な和解と解すべきである。
このように考えれば、会社整理手続において、多数決により和議条項、更生計画等を成立させることができる他の倒産法制とは異なり、附従性の例外を認める条文が用意されていないのも理由があるのであって、他の倒産法制にある附従性の例外を認める規定を類推あるいは準用する前提を欠くものと言わざるを得ない。
このように解したとしても、債権者は不利益と思えば会社整理案への同意を巡る交渉において、保証人を交えて協議した上、主たる債務者に対してはその債務を減免しつつ、保証人には附従性のない独立の債務を負わせるということも可能なのであって、債権者に不利益を強いるものではない。
このような解釈では、債権者から会社整理計画案に対する同意が得られ難く、会社整理手続が実効性をもちえないという議論もあり得ようが、それは会社整理手続の限界というべきであり、このような実際上の必要性をもって、明文なく附従性の例外を認めるのは相当でない
したがって、抗弁は理由がある。
第四 結論
以上から、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官金子修)